叔母の婚約者のOさんと別れて仙台駅から帰途に着き、普段通りの生活に戻ってから間もなく、叔母が東京で箱に詰めてくれた荷物が届きました。
 茶の間の電気の下で、茶色い段ボール箱を開けていた母を囲んで正座していた姉妹たちは、丁寧にテープをはがし終えた母が、蓋を開けてついに中身が見えるようになると、急に身を乗り出して箱の中をのぞき始めました。
 母は、あちこちに折り目がついている包装紙にくるまれた、小さなお土産の包みの上に書かれた姉妹全員の名前を、張りのある声で次々に読み上げながら、私の姉妹たちにお土産をひとつずつ渡していました。驚いたことに、私も母に名前を呼ばれました。中には、デパートで自分の分の買い物だけしかしなかった私の分のお土産まで入っていたのです。
 
 母は、きれいにたたんで中に入れられた段ボール箱の衣類を、そのまま取り出すと、箱の横にていねいに重ねて置きました。お土産を全員に配り終えた頃に、私がデパートで買ったアドレス帳が入った薄い包み紙が出てきました。母が、私の名前を呼びました。
 他の姉妹たちへのお土産の包装紙には幾重にも折り目がついていたのに、私が自分だけのために買ったお土産が包まれたデパートの包装紙は、どう見ても新品でした。
 私は、母が渡してくれた包みをつかむと、思わず立ち上がってしまいました。
 
 茶の間にいた誰かが、それが何なのかを知りたがりましたが、私は返事をせずに、卓袱台の横に突っ立ったまま、叔母が大事にしていた古い包装紙に包まれたお土産のほうを先に、叔母に教えてもらったように、テープの後が残らないようにゆっくりと爪の先のほうで開けてみました。テープで紙がはがれないように、上手に開けることができました。
 包みを開いてみると、中には、私の名前の上から2文字だけをひらがなで刺繍した肌着が入っていました。
 
 ガーゼのように柔らかな肌触りの下着を手の平でさすって、刺繍糸で縫いつけてある自分の名前を何回か左手の人差指でなぞりながら、成城の道の真ん中に棒立ちになって教会の屋根を見つめていた私に早く渡るようにと促したり、大家さんの畳の部屋でてきぱきと洋服をたたんだり、宝物が入った箱の中から自分が大切にしていた物を次々と取り出して私の目の前に並べたり、夜になると私より先に寝てしまい「早く家に帰ってKといっしょの布団に寝たい。」とか「Mちゃんはさびしくないかな。」とか思うとなかなか寝付かれなかった私の横で、マリア様のような穏やかな顔でぐっすりと眠っていた叔母が、いつの間に3人分の下着に刺繍をして箱に詰めてくれたんだろう、と思いました。
 ばんやりと物思いにふけっている私に、父が、私が手に持っていたデパートの包み紙を開けてみれば、と言いました。ビリビリと包装紙を破いて中身を取り出して父に見せながら、デパートでの私の思いつきを話すと、父は、私をがっかりさせるようなある事を教えてくれたのです。

 <次回に続きます。> 
 
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