姉たちが、それぞれに自分へのお土産を手に取って笑いながら話をしていた時、「これはMの。」と言いながら、まんまるいほっぺたを紅潮させ、色あざやかな刺繍糸で施されたゾウさんの模様の黒のビロードのバッグを見せながら、母にバッグの中には何を入れたら良いと思うか相談していた妹は、ようやく、それにズックを入れて使うことに決めたようでした。

 あんな綺麗なバッグに上履きを入れるなんてもったいないと思いながら、私は、父に東京のデパートの食堂で叔母に教わったことを話し始めました。
 座っていた父の横に座りなおして、小包の中から取り出して卓袱台の上に置いてあった便せんや封筒や葉書といっしょに、手に持っていたアドレス帳を見せると、父は、手紙を書いて封筒に入れたら、郵便番号を一番上の四角の中に書き、右はしに住所を書いて、真ん中に友達の名前を書いたら「その下にかならず『様』をつけてから」切手を貼って、裏に忘れずに自分の住所を書いた後に、郵便局に持って行ってポストに投函することを教えてくれました。
 
 イチョウ並木の通りの床屋の向いにある郵便局の前の、あの赤いポストから出せばいいんだ、と自分に言い聞かせながら、卓袱台の上の葉書や封筒の表に、叔母やOさんや、母の実家がある町に今でも住んでいるお友達の名前と住所を書きさえすれば、郵便局が、遠くの町に住んでいるお友達のひとりひとりに手紙を届けてくれることを知った私は、すっかり有頂天になって、高学年の姉が夢中で読んでいて、あらすじを教えてもらったことがある「あしながおじさん」を思い出しながら、思い切って父に、「じゃ、ゆにせふさんにも手紙を出せば読んでくれるかな。」と言ってみました。せっせと手紙を書き続けてさえいれば、物語の登場人物ではない「ゆにせふさん」には、いつか会えるかもしれない、と思ったのです。
 
 一瞬怪訝な顔をして首を傾げて私を見つめると、父は、ゆにせふさん?と訊き返しました。私が、葉書を作っているのはゆにせふさんだと叔母に教えてもらったことを告げて、卓袱台の上に置いてあった葉書を父に見せると、葉書を手に取った父は、ああ、あれか、と言うように大きくうなずくと、私に、ちょっとおいで、と言って廊下に出て、私を、茶の間の隣の六畳の和室に連れて行きました。
 八畳間に続く襖の前と、仏壇の横と、廊下に続く襖の前に置いてあった3つの本棚の間を行ったり来たりしながら、ごそごそと分厚い本を取り出しては書棚に戻し、また別のを取り出してそれを開いてはページをめくりながら、天井からぶら下がる薄暗い電気の下で何かを調べようとしていた父は、あきらめたように、「Mがわかるようなのは、ここにはないかなあ。」と言いながら、部屋の真ん中に座って不思議に思っていた私に、小学校の図書室へ行ってみるようにすすめてくれました。
 
 何を読むために図書室へ行くのか訊くと、父は「ユニセフ」を調べるためだと言いました。父は、「ユニセフ」は男の人の名前ではなく、「国際連合の中のひとつ」で、「世界中の子どもたちの命を守るために働いている人がいっぱいいる団体」だということを教えてくれました。
 
 デパートの食堂できっと叔母も同じように説明してくれていたはずなのに、外国のお料理を食べているのに、その国の「こけし」も言えなかった私は、テーブルを挟んで向かい側に座っていた叔母が、一番大事なことを説明してくれている間中、うわの空で、いつか会ってみたいと強く願いながら「ゆにせふさん」の名前を空で言えるようになる練習をしていたのです。
 せっかく名前だけは、何回訊かれても即座に答えられるようになっていたのに、他のお友達とは違って、まぼろしの「ゆにせふさん」という人だけからは、何度手紙を出しても絶対に返事が返ってこないと知ったその夜、私は、早速小学校の図書室へ行ってみることにしました。

 <次回に続きます。> 
 
*   *   *

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