Chapter Three

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デウスの記

Trees

空と

雲と

木と

大地と

そして

君と僕 - 。

それらすべてを包む空間がとても素敵だ!

*   *   *

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稜線の光

OldShed2

霜が降りたばかりの朝焼けの野原に

祖父の背中を追いかける五歳の私の幻影が映る

 ⁻

麦わら帽子を掴み

キノコ採りに出る祖父の背中に向かって

祖母は一体何と声をかけていたのだろう

 ₋

言い出したら聞かない駄々っ子のように

返事もせずに

祖父は一心に山を目指した

 ⁻

ナラ林の下生えを

音を立てて踏みつける祖父の背中を

私はひたすら追いかけた

 ₋

湿った苔の匂いが沈滞する樹木の枝葉の合間から

傾きかけた午後の日差しが入り込んでも

祖父は前に向かって進んで行った

振り返らずに 

 ⁻

鬱蒼と茂る木々の枝葉の隙間に

わずかに覗く西の空に向かって

翳す私の左手を

柔らかな木洩れ日は包み込んだ

夕刻の稜線を照らす光のように 

 ₋

私は

カブトムシの幼虫と戯れ

飛び交う鳥のさえずりに耳を澄まし

野花を摘んだ

祖父の背負い籠がいっぱいになるまで 

 ⁻

もしかすると

私が吹く笹笛の音は

祖父の耳に届かなかったのかもしれない

 ₋

もしかすると

祖父の小宇宙にも

私は存在していなかったのかもしれない

*   *   *

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彗星1795、1400光年の旅

 
 ああ、そうだった。
言い忘れていたんだがね、

 今しがた、ジョバンナさんが、
とうもろこしの茎やら畑から穫ってきたばかりのかぼちゃを、
納屋の裏の屋台に並べながら、
乳絞りも終えたばかりだと言っていたからね。

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 練習室に、君のチェロを戻したら
―  忘れずに鍵をかけた後にだよ、-
丘の下のジョバンナさんのところで
しぼりたてのミルクをたっぷり飲んで、

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 あの牧場の
銀色に光るドーム屋根に続く
はしごを上って

天日干ししたばかりの
良い匂いの干し草の間で、
ぐっすりと昼寝をするといいよ。

Farm

 ジョバンナさんがこっそり教えてくれたんだけれどね、
あのドーム屋根も、家の裏の牧場のサイロの屋根のように、
夜になると開くらしいよ。

 もう、かれこれ90年近くも前の話なんだが、
ジョバンナさんのお母さんが、10代の頃だったらしいんだが、
― 君も知っての通り、そうそう、105歳になるあのおばあさんなんだがね ― 

 屈折望遠鏡で空を眺めているうちに、
海を隔てた東洋の、。。。なんという国だったかな。。。
とにかく、その国で南東の空を向いて、
デネブだのアルタイルだのベガだのを探してるっていうお百姓さんと、
間違いなく交信したって言う話だよ。

 

Moon

 

 三日月でも月が出ていると明るすぎるから、
星月夜を選んで、
あのドーム屋根の、秘密のスイッチを押すと、

― スイッチは、蜘蛛の巣だらけの5つ重なった円筒形の干し草の束の、
裏側の窓わくの向こうの隙間の陰の方にあるんだが、 -

 
 蜘蛛の糸と、屋根から降ってくる錆びを触らないように気をつけながら、
あのスイッチを押すことができれば、

 やがて、ドーム屋根の上空には、
海を隔てた、 - 何という国だったかな -

 とにかく、
絶対に、錆びと蜘蛛の糸を触らずにスイッチに指が届いたら、の話なんだが、
 ― 君のそのチェロ弾き独特の、すらっと長い指なら大丈夫だとは思うけどね ― 、
その、なんとかいう国から見えた、当時の夏の夜空が広がるっていうからね。

 そこまで成功したら、
まずは、ひときわ輝くベガを
お次に、アルタイルを、
そして、最後に、デネブを探すんだ。
その3つさえ見つけられたら、完璧だよ。

 そこまでいけば、君も、海を隔てたその国から見えた、
90年前のミルキーウェイに、たどり着けるというわけだ。

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